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キャピタル・パートナーズ証券
三原淳雄はキャピタルパートナーズ証券の顧問を務めています。
 

2010年05月21日
三原 淳雄

カントリー リスク
 

 カネは利益を求める一方で、安全、保全も求めるという性格がある。 
 日本ではリスクはとかく「危険な存在」として敬遠されがちだが、そのためリスクという言葉の本来の意味は単なる危険ではなく、リターンとセットとなっていることが忘れられがちとなる。外国のホテルなどのプールには、ガードマンが不在の折には「SWIM AT YOUR OWN RISK」という看板が出ているし、また駐車禁止の道路には「TOW AWAY ZONE.AT YOUR OWN RISK」などと書かれているように、楽しみや楽をする際にはリスクを覚悟して下さいと呼びかけている。一方変電所など本当に危険な場所には「DANGER」の表示がある。 
 リスクとデンジャーは同じ危険でも似て非なるものなのだが、今回のギリシャの騒ぎや北朝鮮による韓国艦撃沈は、このリスクとデンジャーの違いをハッキリと示しているのではないだろうか。 
 ギリシャ危機やユーロ問題の背景にはリターンを期待してスタートしたEUの通貨同盟がリスクにさらされているが、、生命に係わる危険ではない。 
 しかし北朝鮮による韓国艦への攻撃は、まかり間違えば暴発しかねないし、そうなればたちまち生命の危険に晒される事態になる。 
 市場でよく使われるカントリー リスクはデフォールトなど市場のリスクだが、同じカントリー リスクでも国家間の対立から生じるリスクはリターンのないリスクであり、これはデンジャーの範疇に入る。 
 韓国企業の世界への進出、韓国の外国留学熱なども、多分理解不能な不気味な国が、すぐ隣にあることに対する本能的なリスクヘッジの為せる術かも知れない。 
 
 かれこれ20年ぐらい前に、ある外資系の社員から「本支店間の資金の移動に関して、カントリー リスク分の金利はどうする」とNYの本社から聞かれ、絶句したという話を聞いたことがあるが、その理由は地図で見ると日本は北朝鮮のすぐ傍にあるではないか、そのリスク分の金利を上乗せしろということだったらしい。 
 遠く離れたNYから日本を見れば、たぶんそう見えるのでしょうと苦笑したことを思いだした。当時の日本は向かうところ敵なしで、こと経済や市場に関しては他を圧倒していたのだから、カントリーリスクなど誰も思いつきもしない時だけに、この話は新鮮だった。幼いころ満州にいてソ連軍が怒涛のように市内に入ってきた恐ろしい記憶があるが、年月とは恐ろしいもので、平和に馴れるとすっかりカントリーリスクなど忘れてしまうものらしい。 
「備えあれば、憂いなし」と言うが、日本のカントリー リスクに対する備えは軍事や金融も含めて大丈夫なのか、遠いギリシャに引っ掻き回され、隣国の騒ぎに怯えるだけでは余りにも無防備に過ぎているように思えてならない。