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プロフィール
キャピタル・パートナーズ証券
三原淳雄はキャピタルパートナーズ証券の顧問を務めています。
 

2009年09月18日
三原 淳雄

強欲は悪か!
 

 もし人間が忘れることが出来ない動物だったとしたら、リーマンショックや911テロの記憶が根強く残り、まだくよくよしているに違いない。 
 幸い人間は忘れっぽいからある意味では楽天的に生きていけるのだが、なんでも忘れればいいというわけでもない。大きな出来事には大きな変化がついてきていることは忘れない方がいいだろう。 
 911テロの後は景気後退を心配するあまり世界は金融緩和や規制緩和に走った。その結果としてサブプライムローンの証券化という化け物が生まれ、強欲がはびこってリスクが世界中にばら撒かれ、行き着いたところでリーマンの破綻に繋がった。 
 人間は行き過ぎると今度は反対に振れるもので、リスクを取りすぎて破綻したリーマンをみて、たちまち一転してリスク忌避、規制強化の動きとなってきつつあるが、昔から『災害は忘れたころにやってくる』ものと決まっている。 
 そのために「転ばぬ先の知恵」なんて言葉もあるのだが、うまくいっている時にはけろっと忘れるのが人間の面白いところだろう。もともと人間は楽天的に出来ている。明日の朝は目が覚めないのではないかなんて考えていたら、それこそおちおち寝てなんかいられなくなる。折角楽天的な本性を持っているのなら、これほどの大きな変化をわが味方につける努力は忘れない方がいいだろう。 
 今回のリーマンショック後の大きな変化は結構沢山ある。 
 思いつくままに書いていくと、まず需給ギャップが大きく開いたことである。サブプライムローンなど過剰な信用の膨張は住宅や自動車などの爆発的な需要を生み、そのために企業はせっせと設備や雇用を増やし世界は好景気に沸いた。 
 しかしいまは世界中の企業が過剰な設備や雇用の重荷に喘いでいるし、雇用不安のなかで消費はなかなか回復しそうにも無い。つまり世界経済がかなり小さくなっている。 
 一方では金余りなのにリスクに対して臆病になり、買ってみても売りたいときに売れないと困るという意味の「テールリス」なる耳慣れない言葉を市場でよく耳にするようになった。そのため機関投資家の多くが「羹にこりて膾を吹く」現象になってしまった感がある。 
 日本でも小泉、竹中組の規制緩和政策に対する批判が高まっているが、世界も似たようなもので、いまや強欲は悪だとして規制緩和から規制強化へ、投資家有利の税制は投資家苛め税制へという変化も目に付く。赤信号を皆で渡ってたのに、今度は青信号でも誰も渡らなくなったようだ。 
 勿論なかには変わらないものもある。一時はアメリカがこけても新興国が支えるから大丈夫といったデカップリング論がはばを利かせ、与謝野大臣などは『蚊に刺されたようなもの』と、リーマンの影響を一笑に付したものだが、やはりアメリカの世界における存在は大きかったし、やはりアメリカはなんだかんだといっても、その力は侮れまい。やはりアメリカの消費が本格的に立ち直らなければ、世界の需給ギャップは当分縮まらないだろう。ただアメリカも往時の需要を100とすればせいぜい戻っても70〜80が精一杯といったとこだろうから、しばらくは低位横ばいを覚悟しなければなるまい。 
 しかしこんなことで悲観していてもはじまらない。世の中が多少変わっても変わらないのが「グリーディ」、つまり人間のもう一方の本性である強欲である。これこそ「人間は喉もと過ぎればけろっと忘れる」という見本みたいなもので、確かにやりすぎはあったにせよ、反省はもう過去のこと、「反省だけならサルでも出来る」すんだことはもう忘れたとばかりにウォール街では大儲けしたトレーダーが現れ、早速とんでもないボーナスの話で持ちきりである。 
 GSでは一人頭60万ドルのボーナスとかいった話になっているようで、なんとも景気のいい話になってきた。消費が盛り上がらない時にこそ金持ちにばんばん遣ってもらわなければという意味では結構な話なのだが、今のご時世さっそくオバマあたりが何か言いそうである。 
 その気持ちは判らないでもないが今の日本にはそんな景気のいい話もさっぱり聞こえてこない。聞こえてくるのは自分で稼ぐのではなく『頂戴、頂戴』といった貰う話ばかり。おまけに何と先日のNHKでいまや日本には『希望』が無くなったとかで、希望学という学科が天下の東大にあるらしい。そこの大学教授が出てきて希望について薀蓄を述べていたが、希望学なんて何を言っているんだと思わずのけぞってしまった。 
 希望が無い国に未来なんかあるはずが無い。だいたい希望なしでどうやって生きていくのだろう。そんな人生つまらないだろうに、こんな考え方はすぐ忘れて欲しい。希望は自分で作るもの。希望が無いなんて身も蓋もないことなど言ってないで、どうすればあのウォール街の強欲な連中に勝てるか、ぜひそういう希望を持って欲しいものだ。彼らだって人間である。『為せば成る』のも人間なのである。リスクをとるからこそリターンがつぃてくる。誰もリスクを取らなくなったら誰が富を造り出すのだろうか、そこをしっかり考えて希望を論じてほしいものだ。 
 岸洋子さんの『希望』は大好きな歌であり、落ち込んだときによく聴いている。すばらしい歌詞だからきっと希望はこうして求めるものだということが判るだろう。ネットには動画もある。ぜひ聞いてみて欲しい。